<前回のブログ>サプライチェーンDXを成功に導くには?
積水化学様の事例から見えてきた成功要因①~認識された3つの課題~
https://blogs.opentext.jp/successful-supply-chain-dx1/
本稿ではサプライチェーンDXに向けた具体的な方法論や中身をご紹介させていただくことで、少しでも皆様のDXに向けた取り組みのご参考にしていただければと思っています。
前回に引き続き、積水化学工業株式会社様(以下、積水化学様)が企業間データ連携をどう変えていかれたのかを、さらに詳しく見ていきます。
積水化学様の目指す姿
積水化学様は業容倍増を目指されるなかで、まずは販売側のDXが必要と考えられていました。
従来の環境では、基幹システムが複数のシステムに分かれており、それぞれのシステムが取引先とダイヤルアップで接続され、ファイル交換が行われていました。そのためダイヤルアップ廃止に伴う環境移行という問題も抱えていました。
また、基幹システムの画面の一部を取引先に開放し、Web-EDIのような形でのデータ提供・取得も行っていました。基幹システムを開放しているためマスタデータの参照やロジックなどは完全に基幹システムと同じことができます。しかしながら、基幹システムの機能の一部であるため、仕様上の制約も受け、代理店・販売店にとっては使いやすい機能ばかりではなく、あまり普及していませんでした。これが、代理店・販売店からの注文の多くがFAXや電話で行われているという原因の一端にもなっていたのです。
そこで積水化学様は、まずはダイヤルアップ接続からインターネット接続への切り替えに取り組まれました。Web-EDIは基幹システムと切り離して構築し、ユーザーにとって利便性が高く使いやすいものにすることで、従来FAXや電話で受けていた注文をWeb-EDIに移していくということを計画されたのです。
しかし、取引規模の小さい取引先にとってはWeb-EDIでさえも負担になることが考えられます。そこでクラウドFAXの導入も検討されました。
この姿を目指す上で積水化学様がどのようなことを具体的に検討していかれたのか、検討のポイントを3つご紹介します。
1)導入方針の整理
まず挙げられるポイントは「導入方針の整理」です。この段階では、「直接接続EDI」「Web-EDI」「クラウドFAX」の3つを検討されていました。
「直接接続EDI」は単純です。現在のファイル連携をOpenTextプラットフォームに移行することで実現できます。
「Web-EDI」も同様に方針としては難しいものではありません。弊社データ連携プラットフォーム上に、Web-EDIプラットフォームを構築することで移行できます。
議論となったのは「FAX」でした。「ペーパーレス化」と「基幹システムへの取り込みの簡素化」という2つの大きな改善をもたらすFAXのデジタル化ですが、これを実現する一番良い方法は、Web-EDIに取引先を誘導することでしょう。こうすれば、ペーパーレス化にもなり、人の介在も不要となります。
さらに、FAXの基幹システムへの取り込みでよく議論になるのは、「OCRを導入するかどうか」ということです。
OCRとは、画像のテキスト部分を認識し、文字データに変換する光学文字認識機能のことを言います。具体的にいうと、紙文書をスキャナーで読み込み、書かれている文字を認識してデジタル化する技術のことです。
しかし、OCRもPCから出力した請求書等は比較的読込精度が高いのですが、手書き伝票では読込精度が高くなりません。
結局、手作業による修正が一部で必要となります。こうして考えると、投資対効果を考えどこまで対応していくかを決める必要があります。
FAXのデジタル化には、「1.FAXのWeb化ができない取引先の発見」「2.FAXのデータ化(PDF化)による複合機削減」「3.AI/OCRによる入力補助と証跡管理」の3つのステップが考えられます。
「3.AI/OCRによる入力補助と証跡管理」まで行うには時間がかかります。そこで積水化学様では早期実現を優先され、「2.FAXのデータ化(PDF化)による複合機削減」を優先的な目標に定められました。
参考) 基幹システムがSAPの場合のFAXの取り込み
基幹システムがSAPで、FAXをOCRで取り込みたい場合、弊社で提供しているソリューション群が役立つ可能性があるのでご紹介させていただきます。
上図のように、OpenTextであれば、OCRでの読取時、SAPに登録されているマスタを参照して、データを補完するという機能も備えています。
2)フェーズドアプローチ
検討のポイントの2つ目は、段階ごとのアプローチです。
初年度は、既に接続のある銀行系とのEDI、これはダイヤルアップだったのですが、そのリプレースを行い、インターネットEDIもしくはAnserDATAPORT®接続のいずれにも移行できる準備を完了させました。
翌年度は、直接接続EDIでは、前年度の銀行系との接続を受け、代理店・販売店へのロールアウトを行います。また、Web-EDIも同時に構築しロールアウトに備えます。
翌々年度は、Web-EDIの拡張です。みなさまもお使いのスマホアプリやWebアプリのように、今日のアプリケーションは当然のように進化していくものです。基幹システムと切り離すことで柔軟性を手に入れていますので、利用者の反応をいち早く反映し、Web-EDIをより良いものに改善していきます。また、この頃にはどうしてもWeb-EDIに対応いただけない取引先も見えてきますので、それら取引先に対してクラウドFAXの導入も行っていきます。
特筆すべきは、上図の緑色の部分です。EDI導入といってもお客様ごとに置かれている状況は様々です。そこで、そうしたお客様それぞれの状況を調査し、最適なEDIをお客様と一緒に検討するコンサルティングサービスを弊社では行っています。
直接EDIのロールアウトのような場合には、接続先が今後希望する接続方法の調査支援を行います。
また、EDIフォーマットを標準化していきたいとのご要望に対しては、EDIフォーマット標準化もコンサルティングいたしました。Web-EDIについては、どういう画面・機能を備えたらより多くの取引先が使ってくれるかというのがポイントになります。そのための調査、機能精査も行っております。
3)コンサルティングの活用
3つ目の具体的な方策は「コンサルティングの活用」です。
コンサルティングとはどういったことを行うのか、その例としてWeb-EDI機能精査で行ったことの概要をご説明したいと思います。ここで取り上げるのは、「標準プロセスに基づくヒアリング」と「受注データ分析」の2つです。
「標準プロセスに基づくヒアリング」とは、今回、グループ会社を含め共通して使われるWeb-EDIを構築するため、事前にグループ会社それぞれの業務を標準化してシステムに合わせておく必要がありました。そこでプロジェクトチームで標準プロセスを作成し、最初に導入するグループ会社に課題・要望をヒアリングしながら標準プロセスを修正していったのです。その後、他のグループ会社に対し、修正した標準プロセスで受注業務が遂行できるか確認を取っていき導入を進めていきました。
もう一点の「受注データ分析」については、これまでの通常業務の中では気づけなかった様々な改善点について、受注データによる分析を行いました。
「標準プロセス案に基づくヒアリング」を行った結果、取引先から「納期」「「在庫量」に関する問い合わせが非常に多いことが分かったため、Web-EDIとしては、納期参照、在庫量が分かる機能が必要と明らかになったのです。
一方、「受注データ分析」の結果では、注文数別に顧客を4つに分類しました。分類してみると、年間注文件数が少ない注文主が多いこと、また1注文当たりの注文明細件数が少ない(2件以下の)取引先が90%以上であることなどが分かりました。
これらの分析から、年間の注文回数は決して多くなく、1回の注文あたり少数品目を注文する、多くの顧客を抱えている、ということが分かったのです。
一般的にWeb-EDIは、直接接続EDIの代替手段です。そのため弊社のWeb-EDI構築経験でも、
多品目の注文になるケースが多く、「CSVアップロードによる一括注文機能」などを検討することがあります。
しかし、積水化学様の例では、どちらかというと、取引先に対するECサイトのようなものが望まれていることが分かりました。そのため、我々もECサイトをモデルとしながら、スマートフォンへの対応も検討していきました。
こうしたコンサルティングの活用が成功のポイントとなったといえるでしょう。次回はB2B(企業間取引)基盤の移行時に考慮しておくべきポイントについて解説いたします。