DXとして腰を据えよ!
~急いては事を仕損じる電帳法対応~

2022年1月より施行された改正電子帳簿保存法(電帳法)の改正では、保存要件の緩和とともに電子で受領した証憑を紙で保存してはならないなど、厳しい要件も加わりました。この改正を機に、ペーパーレス化に本格的な取り組みを考えている企業も多いと思います。デロイト トーマツ グループとオープンテキスト共催のセミナーでは、そんな企業にとって非常に役立つ情報がたくさん盛り込まれていましたので、ご紹介いたします。

改正電帳法のポイント

「DXとして腰を据えよ!~急いては事を仕損じる電帳法対応~」というタイトルで、12月3日に開催された本ウェビナーは、大きく3つのパートで構成。まずは有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクターの佐藤肇氏によるセッション。続いてオープンテキスト ソリューションコンサルティング本部 リードソリューションコンサルタント 西野寛史によるセッション。そして最後の約10分間は参加者の質問に答えるQ&Aタイムが設けられていました。
最初に登壇したのは、トーマツの佐藤氏。セッションタイトルは「電子帳簿保存法改正(改正電帳法)に向けた請求書保存のポイント」。
冒頭佐藤氏は「改正電帳法に関する解説記事が多数世の中に出ていますが、それらは電帳法の仕様の解釈に関わる部分が中心です。今日は電帳法に対応するにはどのようにすればよいのか、実務の視点から説明いたします」と語り、セッションをスタートさせました。佐藤氏は監査法人トーマツで約20年に渡り、販売、購買、経理・財務などの業務BPR、およびシステム改善コンサルティング、内部統制構築・改善業務に従事してきました。近年は働き方改革やDXなど、スマートワークプロジェクトを中心に活動。「最近は特に電帳法を含めたペーパーレス化を支援することが増えています」と語ります。
今年1月より施行された改正電帳法。改正概要のポイントはいくつかあります。最大のポイントは、「税務当局に対して事前の承認申請を行わなくてもよくなったところ」と佐藤氏は指摘します。いわゆる承認手続きの廃止という緩和策です。
次に注目したいポイントは、「適正事務処理要件(①相互牽制②定期事後検査③再発防止体制)の廃止」です。そしてもう一つ大きなポイントとして佐藤氏が挙げたのは「電子取引の場合には、必ず電磁的記録を保存すること(紙保存の代替では不可)」。「この締付策について、各企業で対応に苦慮しているところ」と佐藤氏は指摘します。
その理由を説明する前に、佐藤氏は文書の電子化における法的対応要件について改めて整理するよう、次のようなスライドを提示しました。「今一度、このようなチェックリストを作って、証憑を整理することをお勧めします」(佐藤氏)

また改正電帳法では電子から紙保管が法的にNGになります。紙保存ではなく、電磁的記録として変更する場合は、図のような形で「業務のみならずシステム側面からも環境を整える必要がある」と佐藤氏は話します。現在、電子媒体で受領した請求書について紙で保存するという業務プロセスは変更しなければなりません。本来であれば将来のペーパーレス化を踏まえた対応が効率的です。ですが、最低限の過渡期的な対応としては、商標管理のデジタル化と紙運用の二重管理が妥当でしょう。現時点では暫定的な対応をし、「段階的にペーパーレス化が図れるよう検討することが求められます」(佐藤氏)

ペーパーレス化へのアプローチ

ペーパーレス化へのアプローチは、業務・システム面双方の変更が不可欠になるため、2つのフェーズにわけて実施します。フェーズ1では法令順守、フェーズ2ではペーパーレス化を推進していきます(図参照)。まずは電帳法への対応に伴う現状の業務の変更に伴い、規定やマニュアルなど、関連ドキュメントの整備が必要になります。また電帳法やペーパーレス化に対応するには、既存のシステムの流用ではなく、ペーパーレス化に対応した文書管理のシステムを導入するケースもあります。「パッケージの選定を行い、導入後は設定していく時間も必要です」(佐藤氏)

また簡便法を採用する場合は、保存場所、保存単位、索引簿の作成方針の決定と共に訂正削除の防止に関する事務処理規程の作成が必要になります。対応手順としては、次の図の上から下に向かって対応していくことが必要になると佐藤氏は言います。特にポイントとなるのが、検索機能の確保です。方法は2種類。一つは保存する電子データのファイル名に通し番号をつけ、電子取引データごとに取引年月日その他日付、取引金額、取引先の情報を入力して一覧表を作成するという索引簿を作成する方法。もう一つは先のような索引簿を作成せず、取引データのファイル名を取引年月日その他日付、取引金額、取引先を含んだ形にして保管するという方法です。
事後処理規程については、「国税庁が公表したサンプルを基に作成すればよいでしょう」と佐藤氏は説明しました。
電帳法への対応はきっかけで、多くの企業ではペーパーレス化を見据えた取り組みとなっています。まずはどのような効果を目指していくのか。目標とする効果例としては、「業務の効率性と有効性という2つの観点があると思います」と佐藤氏。業務の効率性の観点では脱ハンコや働き方改革、紙保管ペースの削減、各種稟議・承認などの意思決定スピードの向上、監査国税対応の業務の効率化、一方の業務の有効性の観点では、内部統制の強化セキュリティリスクの対応力向上などが挙げられます。「目的を明確化し、効果が期待できる具体的な手段に落とし込んでプロジェクトを推進していくことです」(佐藤氏)
法令遵守をきっかけに、多くの企業ではペーパーレス化、社内DXへの取り組みへと発展させることを期待しています。ペーパーレス化は電子だけではなく、紙で来たモノも含めて電子運用をしていくことが理想です。そのための手段として使えるのが「OCRです」と佐藤氏。現在、OCRの誤読率はかなり低くなっており、「十分、業務で活用できる」と佐藤氏は言い切ります。OCRを活用するメリットは、データ化する工数の削減、事務処理ミスの減少、属人化の解消などが挙げられます。「トーマツでは『Deep ICR』というOCRソリューションを用意しています。興味がある方はぜひ、音言わせください」(佐藤氏)

ツールを選定するポイント

電帳法対応ツールを選定するポイントについても紹介。「ツールを選定するときは、情報システム同様、要望を整理して評価の基準を定めて、各ツールを比較検討することをお勧めします」(佐藤氏)
ベンダー評価の表は、下記図の通り。

また電帳法の対象の証憑の一つである契約書については、「契約書に特化した独自ツールがあるので、それを検討してみては」と佐藤氏。独自ツールを使うことで、契約締結までにかかる時間の短縮、書類の輸送費や印刷代削減などのコストメリットが得られることに加え、文書保管のセキュリティ向上が見込めるからです。課題もあります。「契約は相手があって成り立つからです。同じシステムなら問題はありませんが、異なるシステムを使っている場合の対応はどうするのか。またクラウドサービスを使っている場合は、原本はクラウド上で保管したり、相手だけが持っている場合は問題ありませんが、自社にダウンロードして保存する場合は、新たな対応が必要になります。いずれにしても相手先との交渉が必要になるため、当面の間、紙と電子の運用が併存する可能性があると考えられます」(佐藤氏)
デジタル化、ペーパーレス化は、内部統制にさまざまな影響を与えます。それをまとめたのが、下記図です。

AIやRPAなどの導入により、働き方、組織、規定、業務が変わります。「どう会社を守るのか、ガバナンスの視点でも整理する必要があります」と佐藤氏。業務の効率性と、内部統制の有効性とのバランスを確保できずにペーパーレス化が実現できないケースが生じているからです。そこで重要になるのがペーパーレス化を含め、業務プロセスを変更する中で、リスクがどう変化するかを見定めること。そして、IT統制の強化を含めて対応する内部統制が十分にリスクを担保できているかを検証していくことです。まずはステップ1でオペレーションを改善し、ステップ2でリスクの把握と評価を行います。そしてステップ3で内部統制の再設定を行うのです。「この段取りをぜひ、行っていただきたいと思います」(佐藤氏)

まずは電帳法対応を行う。次にそもそもの目標は何かを振り返り、今後のロードマップを描く。業務面では規定の見直しやマニュアル改定、内部統制の整理を実施。システム面では証憑の電子化、ワークフロー化を含めた費用対効果の再検証を行っていく。「このような形で、ペーパーレス化、DX化に取り組んで行くことが重要だと思います」
佐藤氏は最後にこう語り、セッションを締めました。

DXへの取り組みは今が好機

続いて、西野氏によるセッション「DXの本質と求められる文書管理プラットフォーム」が始まりました。
まず、西野氏が取り上げたのは日本におけるDXの現状です。多くの企業がデジタルビジネスへの移行への関心はあるものの、「約半数の企業はDXに着手していないと回答しています」と西野氏。だが西野氏は「今がDXを勧める好機」と説明。その理由は国もDXを推進すべく、さまざまな施策を打っているからです。その一例がDX投資促進税制の創設です。「この税制は23年3月に適用終了なので、早く始めるのが得策です」(西野氏)
このような施策を国が積極的に打つことで、日本におけるDX推進は確実に高まることが予想されています。
経済産業省によると、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています(経済産業省「2025年の崖問題とDX推進に向けた政策展開」)。要約すると「データとデジタル技術を活用して、競争上の優位性を確立すること」であり、データとデジタル技術を活用することで経営メリットを出していくことなのです。

非構造化データを活用する

「データを活用する」と一言で言っても、企業内にはさまざまなデータがあります。ERPや基幹システム、業務システムなどのデータベース内に蓄積されているデータ(構造化データ)は、企業が保有する全データの20%に過ぎません。残り80%は非構造化データ、つまり文書なのです。「非構造化データはデータ活用の観点からいうと情報の宝庫です。その反面、管理が非常に難しい。ですが、今こそ、デジタル技術で非構造化データを活用するときであり、そのアプローチこそが企業情報DXなのです」(西野氏)

例えば製造業では次のような非構造化データがあります。

  • 契約書
  • 財務帳票・証憑書類(請求書)
  • 個人情報(従業員/顧客)
  • 品質管理文書
  • 提案書、議事録、設計書、図面など
  • 顧客から受領した機密文書

「やっかいなのは、それぞれ課題が異なること」と西野氏は続けます。
例えば契約書の課題はペーパーレス化や電帳表への遵守がマストになること。品質管理文書の課題はナレッジとして活用が困難、コンプライアンス面で改ざんがあるとダメージがあること。提案書や議事録などの課題は、情報がサイロになっていて共有が図れていないこと。機密情報や個人情報の課題は、漏えいリスクの低減と、セキュリティと業務効率のバランスをいかにとるかなどという具合だ。
「共通して言えるのは、遵法・安全・統制を満たし、かつ情報を一元管理し、共有を図るプラットフォームが必要になるということです」と西野氏は話します。

オープンテキストが提供するECM「Content Suite Platform(CSP)」とは

ではそれを実現するソリューションにはどんなものが考えられるのか。「ECMというテクノロジーです」と西野氏は言い切ります。
ECM分野で17年マーケットリーダーとして業界を牽引し、トップシェアを誇るオープンテキストが提供するECM製品が「Content Suite Platform(CSP)」です。
遵法(コンプライアンス)を実現するため、証跡管理、記録管理、情報の保全命令がきたときに情報をロックできるリーガルホールド機能などを提供。
安全(セキュリティ)を実現する機能として、きめ細かい権限管理、2段階アクセス制御、ダウンロードや印刷の抑制の抑制、高度認証基盤との連携などを提供。
統制(ガバナンス)を実現する機能としては、メタデータ管理、フォルダ構成や権限設定などをテンプレート化し、統制を効かせるプロジェクトテンプレート機能を提供しています。「その上でのコラボレーション機能を提供。オープテキストは1991年に検索エンジンの会社として創業されました。そのため検索機能については一日の長があると自負しています」(西野氏)
具体的な機能の一覧は次の図の通り。最大の特徴は「企業コンテンツのライフサイクル全般を支援するために必要な機能をすべてオールインワンにしたスィート製品であること」と西野氏は説明します。入手から廃棄に至るまでのライフサイクルで必要な機能がCSP一つでカバーできるのです。

CSPはすでにさまざまな企業で活用されており、ヨーロッパの自動車業界向け産業ロボットメーカーもその1社です。同社では従来、契約書は紙で管理しており、一つの契約書を探すのに30分かかっていました。また契約書の数が多いので手動では満足に処理しきれず、受動的な対応に終始していました。そのため、早く契約延長すれば有利な次の価格がえら得るはずなのに、不要な支払いなど潜在的なロスが発生していました。さらに企業競争力向上のため、DXに取り組むプレッシャーを受けていました。「これらの課題を解決するためにCSPを導入しました」(西野氏)
その効果は絶大で、従来30分かかっていた業務が30秒に。それだけではなく、複数契約書を一気に横並びで比較することで透明性を確保できました。ベストな交渉タイミングを通知設定することで、優位な交渉の立場を獲得。「攻めのサプライヤ管理に転換できたのです」(西野氏)
CSPの導入のベストプラクティスは、スモールスタート&アジャイル。「例えばある製造業であれば契約書管理から始め、SCM文書管理、品質関連文書管理、その他の文書というように、課題優先度の高い文書の管理からスモールスタートし、段階的に利用範囲を拡大していくことが成功パターンです」(西野氏)
特に今年、来年でお勧めしたいのは、「証憑の電子化」だと西野氏は言います。「そこからスタートし、国税関連文書、技術文書など、企業情報全体に広げていく。当社のソリューションは企業情報DXまで担えます。ぜひ、挑戦していただきたいと思います」(西野氏)

盛り上がったQ&Aタイム

セッション終了後、20分弱に及ぶQ&Aタイムが設けられました。その様子も簡単に紹介します。
Q「ペーパーレス化に向けて、各社どのような点で悩んでいる状況でしょうか。それに対してどのような対応を行っているのでしょうか」
佐藤:ペーパーレス化の阻害要因は、押印捺印、稟議など、社内のさまざまな紙を使っている慣習です。しかもさまざまなプレイヤーとの連携が必要となります。相手との交渉は、段階的にメリットを整理して伝えていくことです。例えばハンコ文化は会社に出社しないというメリットを伝えます。またペーパーレスにしたことで、業務のどのようなところに影響があるのかを分析し、それもきちんと伝えることが重要です。またシステムが必要になるので、そのコストをどこで捻出し、グループ会社などがある場合はどう分配していくか。そういう調整も必要になります。電帳法対応の観点では、システム導入だけではなく、簡便的な対応で証憑ごとに暫定的に乗り切るという方法もあります。
西野 電帳法の改正により、タイムスタンプが必須ではなくなるということでしたが、11月頃に自社システムではタイムスタンプは必須という解釈が出てきました。そこで悩んでいる企業が多かったですね。解決法としえは、所轄の税務署や監査法人への相談です。あるお客さまが所轄の税務署に確認したところ、自社システムとはフルスクラッチを作ったシステムを指すということで、パッケージは該当しないとのことでした。もし、その点で悩んでいる方は、所轄の税務署や監査法人に相談いただければと安心できると思います。
Q「弊社ではアプリケーション(SAPイメージ)にて商標を管理しているのですが、オープテキスト社の製品は例えばSAPなどのアプリケーションとの連携はできるのでしょうか」
西野 連携は非常に重要なコンセプトとして捉えています。当社では「コンテント・イン・コンテキスト」というキャッチコピーが示しているように、業務で使っているSharePointやTeams、SAPやSalesforceなどのシステムにCSPを埋め込むことができるようになっています。GUIはSAPですが、データにアクセスしている場所はCSPという形です。
Q「貿易書類を電子化して保存したいです」
佐藤 防疫書類は関税改正が行われたことで、電帳法の対象証憑なので可能です。詳しいことは、トーマツ税理士法人にご相談ください。
西野 貿易書類の管理をCSPでやっているお客さまがいらっしゃいます。貿易システムとSAPをうまく連携させ、電帳法に該当する以外の文書についても管理しています。ぜひ、CSPをご活用ください。
Q「電子帳簿保存法による保存と社内決済のための証跡への電子押印への電子スタンプの押印は別に考えれば良いのでしょうか」
佐藤 ここはわけて考えましょう。内部統制およびワークフローでの整理整頓と捉えて準備をすることをお勧めします。
西野 タイムスタンプを電帳法のために押すことと、証跡を残すことは区別して考えています。契約書の証跡に関しては、CSPは「DocuSign」と連携させることで、相手の署名も一貫して証跡を管理することができます。

1時間10分という短い時間ながら、電帳法への対応、さらにはペーパーレス化、DX化を見据えてどのような取り組みをしていけばよいかが、方法論が提示された本ウェビナー。悩んでいる企業にとっては非常に参考になる示唆が得られたのではないでしょうか。

6月8日(木)に開催のデロイト トーマツ グループとの共催セミナーでは、話題のAI OCR、 Deep ICR®との連携で更なる効率化について詳しく解説します。
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